会報誌2018年6月号(vol.55)では、巻頭特集にアリババが浙江省・杭州に今年4月28日オープンしたショッピングモール「親橙里」を取り上げました。
「親橙里」モールは、中国電子商取引(EC)最大手のアリババ自らがオープン・運営する初の“オフライン”商業施設。延床面積4万平方メートル、地上5階・地下2階の構造で、テナント数は70店前後。規模や立地だけから見ると、一般的な普通の地域型モールという印象なのですが、どうして業界内外で大きな注目を集めているのでしょう。
それは、アリババが提唱・推進する「新小売(ニューリテール)」、つまりビッグデータやAI(人工知能)をフル活用し、リアルとネットと物流を融合させたオムニチャネル概念に対する考え方や技術が、モール内の到る所で具現化されているからと言えるでしょう。
16年10月に、アリババ集団の馬雲(ジャック・マー)会長が、「新小売」のコンセプトを初めて提唱してから、アリババはオフラインの小売・流通チャネルの取り込みに尽力しています。これまでにも、百貨店の「銀泰商業」や「百聯集団」、台湾系スーパーの「大潤発」、家具量販の「居然之家」、ネット出前の「餓了麽」など、幅広い領域で投資を繰り返しながら業容を拡大・多角化してきました。
これらは現時点では投資の意味合いが強く、アリババからの資金注入により店作りで大きな変化があったとは必ずしも言えないでしょう。しかし、今回の親橙里モールは、アリババが自ら運営を試みているだけでなく、「新小売」コンセプトを「実践」・「検証」する場として活用しようとしているのがあからさま。そういう意味においても特別な意味合いを有しています。
今回の特集では、この親橙里モールのどこが特別なのかについて、「新小売」概念の実践場としてビッグデータや顔認識、AR(仮想現実)等がいかに活用されているかについて紹介。また「淘宝心選」や「天猫精霊」、「盒馬鮮生」など自社ブランドをメインとするテナント構成のほか、「淘品牌」という淘宝発の人気ブランドが初めてオープンするリアル店舗について、各店の詳細含め解説しています。
さらに、淘宝・天猫のECサイトで期間・数量限定セールやイベントを実施するコーナー「聚划算」とのコラボ・ポップアップストア、スマート生活家電ショップ「宏図Brookstone」、「黒科技(ブラックテクノロジー)」を応用したOMO(Online-Merge-Offline)の試みなど、アリババが目指す「新小売」の今後の動向含め、現地視察・調査の結果を踏まえながら分析しています。
次に、業界研究でフォーカスしたのが、「eスポーツ」。「エレクトロニック・スポーツ(eスポーツ)」とは、コンピュータゲームを用いてプレイヤー同士が対戦する競技のこと。対戦型のゲームを「競技」レベルに格上げしたもので、パソコンやゲーム機、スマートフォン(スマホ)などをツールとして、知力や技を競い合う「スポーツ」と定義されます。
このeスポーツが、中国で急速に存在感を示し始めています。ユーザー数も爆発的に増加する中、政府や産業界、投資家からも熱い視線が注がれています。中国ネット調査大手iResearch(アイリサーチ)の統計によると、2017年の中国eスポーツ人口はすでに2.5億人に達し、市場規模は50億元を超えているとのこと。試合の観戦者数が延べ100億人を超えるイベントも出現しています。
今年8月18日からインドネシアのジャカルタで開催される「第18回アジア競技大会(アジア大会)」では、eスポーツがデモンストレーション種目として実施される予定。また22年に中国の杭州で開催される次回のアジア大会では、正式のメダル種目になることも決定しています。世界的なeスポーツイベントで優勝する中国選手が登場するなど、これまでになく注目が集まっています。
現在、人気の高い「英雄聯盟(League of Legends)」や「王者栄耀(Arena of Valor)」の競技版ライセンス料は1億元超で、中国内の大型スポーツイベントとほぼ同レベルに達しています。「英雄聯盟」のプロチームも北京、上海、重慶、杭州、成都、西安などの主要都市に誕生。またeスポーツ専門のスタジアムも北京、深圳、天津などに設立されています。
中国政府も、国務院の「文化和旅遊部(文化・観光部)」が、新しいタイプの文化(カルチャー)業態の発展に注力しており、eスポーツ業界の現状と発展に注目するなど、官民挙げての産業育成が進む中国eスポーツ業界。
今号では、こうした中国eスポーツの市場規模やユーザー人口、分業化が進むサプライチェーンや各セグメントでの主な企業、人気ゲームを排出するゲーム開発企業の取り組み、eスポーツイベントとスポンサー企業との関係、ユーザーの属性や市民のeスポーツに対する反応、eスポーツを活用したマーケティングを展開する企業、プロクラブチームの運営、「リーグ制」と「ホーム・アウェイ方式」によるeスポーツ観戦の盛り上がりなど、今後の発展トレンド含め、解説しています。
中国コンビニ最前線レポートは、無人コンビニ、オフィスコンビニに続き、中国コンビニ市場に登場した新たな業態として注目の「車載コンビニ」について。
車載コンビニは、車内に置かれたスナックや飲料を手に取り、商品上のバーコードをスキャン、スマホ決済で支払うというシンプルなモデルです。販売商品は、牛乳やパン、ビーフジャーキー、ビスケット、飲料などの軽食類が主体。陳列ボックスは、運転席と助手席の間や、運転席の後ろに掛けられたラックの中などに置かれています。
1日のタクシー移動ニーズが10数億回にも達する中国。タクシーとネット配車車両を利用した車載コンビニというコンセプトや将来性が、投資家の間でも高く評価されています。今号では、杭州で18年1月から運営をスタートした「魔急便(Mobile Go)」と、深センの「GOGO+」の2社の状況についてお伝えしています。
そのほか、以下のとおり、中国マーケティングやECに関する情報が盛りだくさんです。
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ニュースレター冊子『チャイナ・マーケット・インサイト』
2018年6月号(vol.55) もくじ
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【巻頭特集】
『「新小売」概念を実践・具現化する“実験場”に』
アリババ初の自社運営モール「親橙里」
【業界研究】中国eスポーツ業界
『商業化が進む中国eスポーツ産業が急成長』
官民挙げて業界の発展を強力後押し
【小売・流通現場】中国コンビニ最前線レポート
『タクシー内でスナック、飲料をスマホ決済する車載コンビニが人気』
「新小売」業態の新たな注目株に投資家も熱い視線
【都市別調査】
広東省都市めぐり ~フィナーレ
『取り残された特区・汕頭 近づく浮上の足音』