会報誌2019年5月号(vol.64)では、巻頭特集にネットスーパーの新業態である生鮮EC(電子商取引)アプリ「叮咚買菜」と「美団買菜」を取り上げました。アリババ傘下の「新小売」スーパー「盒馬鮮生」(以下、盒馬)の登場以来、日常の買物はネットスーパーを利用するのが“当たり前”になった上海での生活。実際に盒馬のネット(アプリ)経由の注文が、売上全体の6割を占めるほど、ネットスーパーが人々のライフスタイルに定着しています。
いつでもどこでも欲しい時に欲しいモノを注文できる。ネットスーパーは多くの人々から支持され、ブームと言っても過言ではない状況を呈している中、近頃、上海では「叮咚買菜」(以下、叮咚)という生鮮ECアプリが話題を呼んでいます。
上海の自宅マンションのエレベーターで何度も目にする叮咚の広告。「最低消費ゼロ、配達料ゼロ、29分以内に配送、ネギ1本でもOK」というキャッチフレーズが、強烈な印象を与えています。これまで盒馬の熱烈なファンで、ロイヤルカスターの一人だった私も、この広告を見て興味をそそられ、野菜を注文してみることにしました。
配達された野菜は盒馬よりも鮮度が良いくらいで、値段も安い。配送にかかった時間も宣伝通り30分以内で、盒馬よりさらに早い印象でした。伝統的な市場(いちば)で買い物した際のように、無料でネギなどがついてくるのも、人情味が感じられて面白い…。
海鮮や高級ステーキ肉などハイエンド向けの品揃えは盒馬に及びませんが、野菜の新鮮さと安さ、そして配達の速さで人々の心を掴み、早くも上海では定着しつつあるようです。まさに盒馬にとっては、手ごわいライバルの登場といえるでしょう。
この叮咚。街中で広告や配達バイクはよく目にしますが、店舗はどこにも見当たりません。店舗と倉庫(配送センター)を併用する盒馬とは異なり、単に中国語で「前置倉庫」と称される中・小型の倉庫のみを各地に点在させるモデルです。他の都市でも叮咚に類似したアプリが次々と登場。福建省・福州市の朴朴超市や安徽省・合肥の誼品生鮮はその一例で、大手もこの生鮮EC市場に熱い視線を注いでいます。
2019年1月には中国最大のネット出前アプリ「美団」も、前置倉庫モデルの「美団買菜」の運営をスタート。「餓了麽」も、3月に「叮咚買菜」と戦略提携し、全国200超の都市で生鮮宅配業務を開始しました。
盒馬も上海で「盒馬菜市」という生鮮ECモデル店をオープン。伝統市場のような「量り売り」で野菜や果物の販売サービスを提供。家電量販大手の蘇寧も、傘下のコンビニミニスーパー「蘇寧小店」アプリ上で野菜市場「蘇寧菜場」の運営と生鮮食品の予約販売をスタート。生鮮ECは瞬く間に「新小売」の新たなトレンドとなっています。
そこで、今号ではこの「前置倉庫」モデルの代表格とも言える「叮咚買菜」と「美団買菜」の2社について徹底的に調査・分析しています。
次に業界研究として中国ビール業界、特に人気上昇中のクラフトビールにスポットライトを当てました。一人当たりのビール消費は36リットルで、ビール消費大国のチェコやドイツには遠く及ばないですが、ビール生産と消費量全体では世界一を誇る中国。
ここ数年、中国人の消費性向や観念が成熟し、また少々値段が高くてもより良いモノを求める「消費昇級(アップグレード)」トレンドなどに伴い、中国のビール市場も大きく変化。低価格帯ビールの市場シェアが年々減少する一方、中高級ビールのシェアは急成長しています。市場調査機関ユーロモニターの統計によると、中国の中高級ビール(ユーロモニターの定義:末端価格7元/リットル以上)のシェアが2011年の38.4%から、17年には60.9%と大きく成長しているとのこと。
またクラフトビールも15年から急成長しています。16年には中国クラフトビールのトップブランド「Panda Brew(熊猫精醸・パンダブリュー)」や「Master Gao(高大師・マスターガオ)」などが相次いでベンチャー投資の対象となりました。
17年には「酒花児」が数千万元のベンチャーキャピタル(A+ラウンド)で資本を調達。「開巴」や「Boxing Cat(拳撃猫・ボクシングキャット)」はビールメーカー大手のアンハイザー・ブッシュ・インベブ(中国名:百威英博)に買収。現在、中国のクラフトビール消費は市場全体の1%程度に過ぎませんが、その発展動向に多くの注目が集まっています。
そこで中国ビール市場全体の状況を踏まえながら、輸入ビールや上位5社(華潤雪花、インベブ、青島、燕京、カールスバーグ)の動向、そしてクラフトビールの実態について、代表的なブランドであるマスターガオ(高大師)、パンダブリュー(熊猫精醸)、酒花児の3社について調査・分析。またアリババや京東(JDドットコム)の取り組みや、消費昇級トレンドを背景としたクラフトビール人気の理由と今後についてまとめています。
もう一つの業界研究として、中国小売・流通業界を取り上げました。19年5月に中国チェーン経営協会が発表した「2018年中国チェーン店ランキングトップ100」。トップ100企業の売上総額は2.4兆元で前年比7.7%の成長を記録。社会消費品小売総額(小売全体)に占める割合も6.3%と、17年比で0.3%増となっています。
家電量販大手の蘇寧易購と国美が1位と2位を占め、総合スーパーの華潤万家が3位にランクインする中、注目に値するのがアリババ傘下でOMO(Online Merges with Offline:オンラインとオフラインの融合)概念の「新小売」を推進する生鮮スーパーの「盒馬鮮生」。売上140億元で47位に急上昇、成長率は300%超えの大躍進です。トップ100社で成長率が三桁を記録した唯一の企業となっています。
その他に苦戦を強いられている総合スーパーや百貨店を尻目に成長を続けるコンビニ、さらには成長の原動力となっているオンライン販売や「新小売」の導入など、中国小売・流通業の現況について、ランキングを参考にしながら考察しています。
そのほか、以下のとおり、中国マーケティングやECに関する情報が盛りだくさんです。
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ニュースレター冊子『チャイナ・マーケット・インサイト』
2019年5月号(vol.64) もくじ
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【巻頭特集】
『ネットスーパーの新業態〜生鮮ECアプリ』
盒馬に挑む「叮咚買菜」と「美団買菜」
【業界研究】中国ビール業界
『高級化が進む中国ビール市場』
クラフトビールの人気が急上昇
【業界研究】中国小売・流通業界
『2018年中国チェーン店トップ100』
蘇寧がトップ、盒馬もランクイン
【都市別調査】
フリマと動画のロンド①
『不用品を商品に プロ級動画を手軽に』