会報誌2021年1&2月合併号(vol. 81)では、巻頭特集に中国ネットスーパーを取り上げました。2016年にアリババの創業者・ジャック・マー(馬雲)氏が初めて提唱した「新小売」(ニューリテール)。ネットとリアルを融合した新しい小売・流通モデルを目指すというもの。
その後、新小売と謳った新業態の店舗が数多く出現しましたが、中でも一番度肝を抜いたのがネットスーパーの「盒馬」(フーマ−)でしょう。店舗と倉庫を併用し、半径3キロメートル内であれば、注文後30分以内に無料で自宅までお届けするというデリバリーが話題となり、一気に消費者の間で広まりました。
その後、店舗ではなく、小型の倉庫(配送センター)のみという新しい業態も登場。中国で「前置倉庫」と呼ばれるモデルで、「叮咚買菜」(ディンドン)が上海で勢力を拡大しました。新興のネットスーパーだけでなく、カルフールやウォルマート、さらには日系コンビニすら、京東到家や美団、餓了麼など宅配代行プラットフォームを活用して、デリバリー業務をスタート。もはや、中国での小売・流通業は「デリバリーなしでは成り立たない」と言っても過言ではないでしょう。
しかし競争の激化とともに、ラストワンマイルのコストがかさみ、なかなか黒字化できず、2019年には倒産する企業も続出。一旦、ネットスーパー業も下火になるかと思いきや、2020年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大が、業界が再び大きく発展する契機となりました。
外出を控え、家で過ごす時間の増えた消費者の多くが、ネットスーパーで日々の必需品を購入。「ネット販売+無接触(非接触)配送」サービスにより、業界は再び活況を呈し、高齢者など多くの新たな消費者を取り込む結果となりました。中国調査会社のiiMedia Research(艾媒諮詢)は、2020年の宅配による生鮮食品の取引額が4,000億元超で、23年には8,000億元を超えると予想。しかしこれでも、生鮮食品の消費全体のわずか5%でしかありません。
新型コロナの流行が沈静化した中国ですが、ネットでの生鮮食品の購入は、多くの人々の日常的習慣として定着しているようです。中国のデータ分析会社のFastdataによると、ネットスーパーのユーザー数は急増中で、2020年6月時点で、月次アクティブユーザー数は前年同期比75.4%増の7,100万人超に。リピート率も大きく伸びているようです。
このように新型コロナで息を吹き返した中国のネットスーパー業。利用者の拡大とともに、盒馬(フーマー)の店舗・倉庫一体型や、叮咚(ディンドン)の前置倉庫型のほかに、日本の「生協」のような社区・社群コミュニティ共同購入型、冷蔵ロッカーでのセルフ受け取り型など、様々な新業態も生まれています。
そこで今号では、このように目まぐるしく変化する中国のネットスーパー業の最新事情ということで、これまでの発展過程を網羅しながら、注目すべき新業態のビジネスモデルを解説。また盒馬、毎日優鮮、叮咚買菜、食行生鮮など主なネットスーパー各社の動向から、社区・社群コミュニティ共同購入の先駆者ともいえる興盛優選、さらにはネットスーパーのユーザー像についても深堀りしています。
次にトレンドウォッチとして取り組んだのが、2021年の中国消費トレンドを占うです。新型コロナウイルスの流行は、世界の消費に大きな打撃を与えましたが、一方で、中国は厳格な隔離対策が功を奏してか、経済と消費はすでにほぼ元の状態にまで回復しています。
2020年に、中国経済は世界主要国の中で唯一のプラス成長を実現。実質GDP(国内総生産)成長率は前年比2.3%増でした。消費は、通年で前年比3.9%減とマイナス成長でしたが、百貨店やスーパー、電子商取引(EC)の売上高を合計した社会消費品小売総額(小売売上高)は、第4四半期には前年比4.6%増にまで上昇しました。
新型コロナの流行は消費にとって大きなマイナス要素となりましたが、同時に消費を“進化”させたともいえるでしょう。中国で「宅経済」と称されるオタク(巣ごもり)エコノミーの成長により、ネットでの消費が急増。医療、教育、エンタメなどの分野も大きく発展。隔離生活により、自宅で料理やトレーニングをする人が増え、「家」が新たな消費の場(シーン)として注目を集めました。
中国政府の国務院発展研究中心・市場経済研究所の統計によると、スポーツ・トレーニング関連支出、定期健診関連支出、保険関連支出を増やすと答えた人がそれぞれ75%、60%、59%に上っているとのこと。また新型コロナの世界規模での蔓延により、国外への渡航が制限されたことで、中国の免税品や越境EC市場が活況となり、消費の国内回帰傾向がより顕著となりました。
中国で「国潮」と呼ばれる愛国消費トレンドの広がりを背景に、国産の製品やブランドの消費も成長が加速。またスマートフォン(スマホ)を使ったライブ配信で商品を販売するライブコマースも、コロナの流行でさらに人気が高まりました。
アフターコロナの時代に向けて、依然として多くの不確実性が存在する中、中国はコロナ対策が比較的成果を上げていることもあり、消費に対する態度も他国に比べて前向きとなっているようです。米コンサルティング大手・マッキンゼーによると、中国消費者の経済回復への「純楽観度」指数は54%に達したもよう。ちなみにアメリカの22%を除き、ヨーロッパやオーストラリア、日本はいずれもマイナスで悲観的となっており、今後も当面は中国が世界消費の牽引役を担っていくと予想しています。
2021年は中国政府にとって「十四五」(第14次5カ年計画)の最初の年です。中国政府が掲げた「双循環」政策。「強大な国内市場を形成し、新たな発展のシステムを構築する」ことが、同計画のメインとなる目標で、なかでも「内需拡大により国内の消費市場を刺激する」ことが、重要な政策方針となっています。
中国政府の政策の後押しとアフターコロナーのニューノーマル(新しい生活様式)といった外的要因の下、2021年の中国消費はどのような発展傾向を示すのでしょうか?今号では、20年にコロナを中心に起こった消費現場での変化を踏まえながら、①安心感消費、②意義追求消費、③つながり消費、④人格化消費、⑤個性化消費の5つのキーワードを通して、2021年の中国消費動向を洞察しています。
そのほか、以下のとおり、中国消費やマーケティングに関する情報が盛りだくさんです。
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会報誌『中国消費洞察』
2021年1&2月合併号(vol. 81) もくじ
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【巻頭特集】中国生鮮EC(ネットスーパー)業界調査レポート
コロナがネットスーパー市場の成長を加速!!
もはやデリバリーが“当たり前”!!中国ネットスーパー徹底研究
【トレンドウォッチ】2021年中国消費トレンド分析レポート
アフターコロナと双循環で中国消費はどう変わる?
2021年の中国消費トレンドを徹底調査・分析
【マーケティングレポート】オンライン医療①
コロナ禍で急成長 医療のリモート化