会報誌2021年3月号(vol. 82)では、巻頭特集に、アフターコロナでも急成長が続く中国のヘルステック(オンライン医療)業界を取り上げました。
2020年に新型コロナウイルス(COVID-19)感染症が世界的に大流行するなか、中国では「互聯網+(インターネットプラス)」医療に大きな注目が集まりました。「インターネット+」とは、インターネットを活用して既存産業の競争力強化を図ろうとする中国政府による国家戦略のことです。
スマートフォン(スマホ)を介してネット上で気軽に医師とのやり取りや問診サービスを受けられるだけでなく、医療機関でのヒト混みを回避したり、殺到する患者を効率的に減らしたりできるのが大きなメリットでしょう。また慢性疾患患者や軽症患者にとっては、外出しなくとも自宅で療養できるのは、コロナ禍でも大きな安心感に繋がりました。
新型コロナの流行期には、阿里健康、平安好医生、微医、丁香園、春雨医生などのオンライン医療プラットフォームが、無料のオンライン問診サービスや医薬品のEC(電子商取引)、コロナ防疫対策に関わるコンテンツや感染状況などの情報を提供。短期間でユーザー数を大きく伸ばしました。
同時に、オンライン医療機関の設立も急増。2020年の第1四半期には、国家衛生健康委員会が管轄する医療機関のオンライン診療室の数が、前年同期比17倍と増加。浙江省では省主導のオンライン医療プラットフォームが設置され、50を超える医療機関がネットワークで結ばれました。
衛寧健康、創業惠康、東華軟件など医療関連のソフトウェア企業は、医療機関のオンライン業務システムの構築をアシスト。オンライン問診や遠隔回診などの業務に貢献しました。
新型コロナの流行は、オンライン医療業界にとって大きな発展の契機となりました。中国政府も関連政策を公布して業界の発展を推進。当会報誌でも2020年5月号で、当時のオンライン医療の発展状況をレポートしましたが、その後も業界は急成長が続いています。
中国EC大手の京東(JDドットコム)傘下の京東健康(JDヘルス)が香港で上場。アリババ系の阿里健康(アリヘルス)は、公式アプリ「医鹿」の運営を開始。中国保険大手の平安保険傘下の平安好医生(Ping An Good Doctor)は、サービスを「大健康」(医療を含む健康関連全般)領域へと拡大。名称も「平安健康」に変更しました。
アフターコロナの時代を迎え、ウイルス防疫が新たなライフスタイルの1つとして定着するなか、中国のオンライン医療業界は今後どのような発展を遂げるのか?今号では20年5月号に続いて、中国政府の政策支援、市場規模、ベンチャー投資の状況、産業チェーンを紹介。またセグメント別に、医療機器、オンライン問診、医薬品EC、オンライン健康診断について、各代表企業とともに調査しました。
さらに中国ネット大手のBATの取り組み、特に百度(バイドゥ)とテンセントについて詳しく解説。7割を超える中国のネットユーザーが、新型コロナの流行期にオンライン問診や健康コンサル、医薬品ECを利用した中、官民挙げてのオンライン医療産業の振興を目指す中国の現状を調査・分析しています。
次に業界分析として取り組んだのが、人工知能(AI)技術の発展により、急成長が続く中国の音声認識市場です。音声認識技術は、AI領域で最も早くから発展が始まった分野で、商業化も進みました。ここ数年は、ディープラーニング技術の進歩に伴い、識別の正確性も大幅に上昇し、実用化がさらに進んでいます。
この業界を代表する科大訊飛(iFLYTEK)、捷通華声(SinoVoice)などのほか、思必馳(AISpeech)、雲知声(Unisound)、出門問問(Mobvoi)などの新興スタートアップ企業も躍進。もちろんインターネット大手の百度(バイドゥ)やアリババなども、同分野に積極的に参入しています。
教育、カスタマーサービス、通信などの業界のみならず、自動車業界ではテレマティクス、また住宅、医療、スマートハードウェアなど様々な領域で応用が進むAI音声認識。スマート化が進む昨今、音声によるオペレーションをメインとしたツールも増えつつあります。
ここ数年、中国のAIによる音声認識機能の需要は、消費市場を中心に急拡大を続けています。ネット企業やスマートデバイスメーカーは、音声認識領域への投資を増やし、スマートスピーカーメーカーもスマートホーム市場でのシェアを獲得すべく、大幅に価格をディスカウントするなどして熾烈な争奪戦を繰り広げています。
IT専門の調査会社・IDC中国によると、中国の音声認識技術応用の市場規模は2019年に12億2,490万米ドルと試算。スマートホーム分野での製品市場のほか、カスタマーサービス、法廷審理の際の音声文字自動変換などの分野で幅広く普及が進んでいるとレポートしています。
一方、中国政府系シンクタンクである賽迪智庫の統計では、2019年の中国の音声認識の市場規模は121.7億元と算出。AI技術の成熟と応用の進化に伴い、今後も同市場は年間約25%の成長を保ち、市場規模が21年には195億元に達すると見込んでいます。
今後、音声認識技術やスマートフォン(スマホ)、タブレットなどのIT・電子機器の進化がさらに進めば、誤認識などのトラブルも減少して、使い勝手はより改善していくでしょう。中国の音声認識市場は、今後もさらなる拡大が予想されています。
そこで、今号では世界に先駆けて応用が進む中国のAI音声認識について、市場規模から産業チェーンを調査。またネット系と専業系との熾烈な主導権争いが続く中、アリババ、科大訊飛、百度、テンセント各社の取り組みを紹介。音声認識技術の応用分野として、モバイルデバイス、自動車(テレマティクス)、スマートホーム、家電、教育、医療、カスタマーサービス、警察・司法などでの活用事例を紹介。
さらには2018年7&8月号で取り上げたスマート(AI)スピーカーについて、その後の状況を網羅するとともに、ビッグスリーとなったアリババの天猫精霊、百度の小度、小米(シャオミ)の小愛同学について解説。さらに若干存在感が薄いイメージのある微信(ウィーチャット)の取り組みもレポートしています。
そのほか、以下のとおり、中国消費やマーケティングに関する情報が盛りだくさんです。
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会報誌『中国消費洞察』
2021年3月号(vol. 82) もくじ
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【巻頭特集】中国ヘルステック市場調査レポート
中国「大健康」市場規模は20年7兆元超に!!
アフターコロナも急成長の中国オンライン医療市場
【業界研究】中国AI音声認識市場調査レポート
家電、教育、医療から警察、司法まで応用広がる
アリババ、百度、科大訊飛が牽引する中国AI音声認識
【マーケティングレポート】オンライン医療②
医師との連携、AI開発 多機能高度化するアプリ