会報誌2022年9月号(vol. 97)の巻頭特集では、中国で「生鮮EC」と呼ばれるネットスーパーを取り上げました。野菜やフルーツ、肉・魚介類など生鮮品だけでなく、近年は加工食品や日用品まで幅広く扱う総合スーパーとして進化しつつあります。
中国での生鮮ECの歴史は、第1号とされるフルーツ専門の「易果生鮮」(yiguo.com)が2005年に誕生してからすでに17年を数えます。2015年にアリババ系スーパーの「盒馬鮮生」(フーマーフレッシュ)が登場。オンラインとオフラインを融合した「新小売」(ニューリテール)と呼ばれるオムニチャネル概念を合言葉に、生鮮EC市場拡大に道を拓き、世界的にも注目を集めました。
2020年の新型コロナウイルス感染拡大による都市封鎖(ロックダウン)下では、生活必需品購入のため、生鮮ECを利用する人が激増。生鮮品をネットで購入する行為がさらに幅広い消費者の日常に浸透する結果となりました。
中国調査会社のiiMedia Research(艾瑞諮詢)によると、コロナの流行が沈静化されてから生鮮ECの利用頻度はやや減少しているようですが、コロナ前との比較では依然として高い水準を保っています。2022年3月末に都市封鎖(ロックダウン)となった上海。一時は生活物資の供給が極度に滞りました。多くの消費者が生鮮ECアプリを使って食品や日用品を購入し、ユーザー数も急増しました。
インターネットデータプラットフォームの易観千帆(Qianfan.analysys.cn)によると、2022年4月時点の生鮮ECユーザー数は7,021万人で、前月比13.5%増。またほとんどの生鮮ECアプリで、1日平均起動回数と平均使用時間が上昇傾向を示しました。盒馬(フーマー)を例にとると、2022年4月時点の1日平均アプリ起動回数は1,067万回を超えたようです。
生鮮EC企業の多くは、アリババやテンセントなどネット大手各社やベンチャーキャピタルから資金調達を受けているにもかかわらず、巨額の赤字を抱えているのが実状です。
2015年設立で、中国で「前置倉庫」と呼ばれる店舗なし倉庫のみの新興ビジネスモデルで注目を集め、米ナスダック市場にも上場した「毎日優鮮」(MissFresh)。しかし2022年7月末に、デリバリーサービスを予告なく停止。さらに大量の従業員を解雇して、大きな注目を集めました。
中国生鮮EC業界の発展にはネットインフラだけでなく、農業、サプライチェーン、倉庫物流、ビジネスモデル、国の政策、消費者の消費習慣及びニーズなど、様々な要素が関係しています。
当会報誌でも2021年1&2月合併号で中国生鮮ECを特集したばかりですが、わずか2年弱で大手の経営不振や新興企業の登場など、様々な変化が起こっています。そこで、今号で改めて中国の生鮮EC業界にスポットライトを当て、その現状を調査・分析するとともに、中国生活者の日常消費と関係の深い同業界をさらに深く掘り下げて検証してみました。
次に業界研究として、中国ライブコマースを取り上げました。わずか4~5年の間で兆元単位の巨大市場にまで成長し、今や中国で主流の販売チャネルとして欠かせなくなったライブコマース。この急成長を支えてきた薇婭(Viya)や李佳琪(Austin)など超人気のトップライバー(※ライブ配信者のこと)が相次いで“退席”するなか、新たなライバーの出現と配信動画の形態が注目を集めています。
2021年、中国政府が打ち出した子供の宿題や学習塾通いによる負担減を目的とした「双減」政策により、学習塾業界は大きなダメージを被りました。大幅な人員削減を敢行する会社が続出。中国で「K12」と称される小学校から高校までの12年間の塾業務の停止を余儀なくされる一方、業界では生き残りをかけた新たな模索が始まっています。
好未来(TAL)や瑞思教育(RISE EDUCATION)など学習塾大手各社が素質教育やアート教育に重心を移行するなか、最大手の新東方在線(Koolearn)は、教育と全く畑の異なるライブコマース業界に参入し、大きな注目を集めています。
2021年12月、新東方在線は農産物を中心に扱う独自のライブコマースチャンネル「東方甄選」(ドンファン・ジェンシュエン)の運営をスタート。2022年6月には、新東方の英語講師である董宇輝(ドン・ユーフイ)が、中国版TikTokの抖音(ドウイン)上でバイリンガル形式のライブコマースを配信。「授業+ライブコマース」という全く新しい試みは、一夜のうちに大きな注目を集めました。
瞬く間に抖音上で最も人気の高いライブスタジオとなった東方甄選。抖音のデータ分析プラットフォームの嬋媽媽(chanmama.com)によると、2022年の618ネット商戦の期間中、東方甄選は累計3億元超の取引額を記録。ライブコマースの1日平均視聴回数は1千万回以上で、4日間連続で取引額5,000万元を達成しました。
同じくショート動画関連データプラットフォームの飛瓜数据(feigua.cn)によると、2022年8月に東方甄選のライブコマース配信1回あたりの視聴者数は、基本的に1千万人台を維持。取引額も2,000万元前後を保ち、長期にわたり抖音のライブコマースランキングで上位をキープしています。
また新東方在線の公表データによると、ライブコマース事業の最近3ヶ月間のGMV(流通取引総額)は20億元を達成したようで、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いといえるでしょう。
ライブ配信を専門職とするライバーだけでなく、財界の著名人や人気芸能人、さらにはアスリートなど様々な層がライブコマースを展開。企業自らが配信する自社ライブも常態化しつつあります。
“全国民ライバー化”といったムードの中、新東方在線はなぜこれほど大きな注目を集めているのか?その成功のカギは何か?中国ライブコマースの最新状況を整理しながら、新東方在線台頭の要因を探ってみました。
あの頃の中国ビジネス&生活(その2)では、前号の続きということで、中国でスマホ決済が普及したきっかけに加え、当初スマホ決済で微信(ウィーチャット)から劣勢を強いられたアリババがアリペイ(支付宝)の利用を促すために仕掛けた起死回生策について解説しています。
中国でかれこれ4〜5年、現金を手にした記憶がほとんどないほど隅々にまで普及したスマホ決済。今でこそ当たり前のように使っているスマホ決済ですが、登場したての頃は中国人の間でも抵抗感や不信感がありました。そうしたなか、スマホ決済が一気に普及するある劇的なサービスが登場したのですが、それは一体何なのでしょう?
そのほかにも、中国の消費やマーケティングに関するインサイト情報やデータが盛りだくさんです。
================
会報誌『中国消費洞察』
2022年9月号(vol. 97) もくじ
================
【巻頭特集】中国ネットスーパー業界調査分析レポート
大手「毎日優鮮」が突然デリバリーを停止?
中国ネットスーパー(生鮮EC)業界のいまに迫る
【業界研究】中国ライブコマース業界研究レポート
トップライバー“退席”を尻目に元塾講師が躍進!
学習塾大手「東方甄選」が“授業”型ライブコマースで急成長
【マーケティングコラム】あの頃の中国ビジネス&生活②
アリババが仕掛けた起死回生策とは?
中国でスマホ決済が普及したきっかけは・・・