会報誌2023年6月号(vol. 105)の巻頭特集では、コロナ禍を経て、“香り”に癒しや自己表現を求めるようになった中国フレグランス市場を取り上げました。
米調査会社ギャラップの最新世論調査によると、世界中の成人の10人に4人が、何らかのストレスを抱えているとのこと。北京知萌諮詢(Foresight Consulting)の「中国消費トレンド報告」でも、全体の76.2%が焦燥感を感じていると回答。仕事、家庭への責任感、金銭問題、経済環境、家族の健康などが主な理由となっているようです。
また、多くの人が、過去1年間にストレス(49%)、焦燥感(38%)、精神的疲労感(22%)、過度の疲労(20%)などの問題を抱えていたと回答。心の中に蓄積するストレスや焦燥感を抱えるなか、消費を通して心の緊張を解き、安らぎを得たいと考える若者も増えています。
そうしたなか、中国で「療癒経済」と称される癒しエコノミーが、新たな消費キーワードとして大きな注目を集めています。全球健康研究所が公表したレポート「世界健康経済:新型コロナを越えて」によると、世界の癒しエコノミーの市場規模は、毎年約10%増のペースで拡大を続けており、2025年には7兆元に達すると見込まれています。
癒しエコノミーは広範囲をカバーします。精神的に心地よいと感じる体験(コト)のほか、リラックスして快適な気分になれる商品やサービスなど、すべてこの範疇に含まれると言っても過言ではないでしょう。
メディテーション(瞑想)やヨガ、トレーニング、座禅などはもちろん、ロッククライミングやホームパーティ、密室脱出ゲームなどのアクティビティも、ストレス発散型の癒しといえます。そのほか、フードセラピーやアロマテラピーなどの健康系の癒しや、箱を開けるまで中身がわからないブラインドボックス(中国語:盲盒)、デザイントイなどのサプライズ系の癒しもあるでしょう。
人気のカフェやハンドメイド(DIY)、おひとり様向けレストラン、ペットなどもこれに属します。ストレス発散を主目的とした雑貨も、癒しエコノミーの下で大きな注目を集め、様々なネットでバズる「網紅」(ワンホン)商品が生まれています。
今号で取り上げた香水などのフレグランスも、癒しエコノミーを象徴するジャンルの1つでしょう。香りがもたらす嗅覚体験や気分、中国で「儀式」と称されるセレモニー的要素を楽しむ中国人が急増しています。
高級ブランドからマイナーなメゾン系ブランドまで香水の多様化が進んでいます。また香水のみならず、キャンドル、オイル、デフューザーなど、様々な形態のアロマ製品が、若年消費者の日常生活に定着しつつあります。
そこで今号では「療癒経済」の下、急成長を続ける中国の香水市場や消費の特徴、マーケティングトレンド、ユーザー像に加えて、香水とともにニーズが高まるルームフレグランスについても詳細に分析しています。
次に、低価格やディスカウントは二の次で、「悦己」トレンドが顕著となっている中国家計消費状況についてレポートしています。
経済成長と所得水準の上昇に伴い、世帯(家庭)構造が大きく変化している中国。世帯当たりの人数が減少し、核家族化が浸透すると同時に、単身の一人暮らしの割合が増え続けています。
一方で、中国政府は1979年から導入していた「一人っ子政策」を徐々に見直し、2016年にはすべての夫婦に2人目の出産を認める「二人っ子政策」を実施。2021年には第3子の出産も容認したことで、複数の子供を持つ世帯も増加しています。
このように一人暮らしを含む「核家族」と「子だくさん」という逆方向の動きが、現在の中国世帯(家庭)構造の変化を形作る2大トレンドとなっているなか、中国人のライフスタイルや家計消費にも大きく影響を及ぼしています。
中国で2016年頃から顕著となる、より良いモノやサービスを求める「消費昇級」(消費アップグレード)トレンドが継続するなか、家計消費におけるニーズも様変わりしつつあります。以前は、家族(子供)の生活や教育が優先で、自分は二の次だったのが、自分を悦ばせる、満足させることが、同時に家族の幸せにもつながるといった考え方も広まっています。
まさに近年、中国消費でよく言及される、自分を悦ばせるという意味の「悦己」(ユエジー)が、家計消費にも浸透しているのです。例えば、子女の教育や成長を見守り、バックアップすることが、自身が追求する価値観の体現につながるといった考え方です。
また、家計消費の中心層が、時代の移り変わりとともに若年化していくなか、消費に対する価値観や行動も多様化。各世代ごとの特徴や違いの差が顕著になってきています。現在、20〜30歳代の「90後」(1990~94年生まれ)や「95後」(1995~1999年生まれ)世代が、結婚して家庭を持ちはじめたことにより、家計消費にも様々なニュートレンドが生まれています。
今号では、コロナ禍を経て、中国の新しい家庭像と家計消費の実態に注目し、健康、安心・安全、精神的つながり、自己実現や癒しなど、現代の中国世帯が抱えるニーズにスポットライトを当て、詳細に分析しています。また①乳製品、②飲料、③スナック食品、④コメ・油・食品、⑤粉ミルク、⑥ペット関連品、⑦家庭用洗剤、⑧パーソナルケア品、⑨日用品を対象に、各ジャンルの特徴やニーズも分析しました。
あの頃の中国ビジネス&生活(その10)は、支払いをスマホ決済のみに集約した盒馬(フーマー)についてです。
盒馬が誕生した2016年頃は、まだスマホ決済が徐々に普及しはじめたころ。高齢者や地方の人たちは、まだスマホすら持っていないのがごく当たり前でした。また、セキュリティの問題などを不安視する人たちが、スマホ決済を敬遠するのもごく一般的でした。
そうしたなか、盒馬はオープン当初から、支払いはアリババ系のスマホ決済「支付宝」(アリペイ)のみに限定。店舗を初めて訪れた際も、食材を選んでレジに向かったところ、店員から、まずは盒馬の公式アプリをダウンロードして会員になってくれと要請されました。もちろん、そのアプリ上での支払いは、アリペイと紐付ける必要がありました。
アプリからネットで注文する際も、支払いはアリペイのみ。このように支払いをアリペイに集約させる理由は一体、何だったのでしょう?
そのほかにも、中国の消費やマーケティングに関するインサイト情報やデータが盛りだくさんです。
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会報誌『中国消費洞察』
2023年6月号(vol. 105) もくじ
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【巻頭特集】中国フレグランス市場分析レポート
“香り”で自己を表現する風潮広がる
「療癒経済」で急成長の中国フレグランス市場
【消費者研究】中国家計消費状況調査レポート
低価格やディスカウントは二の次!
家計消費でも「悦己」トレンドが顕著に
【マーケティングコラム】あの頃の中国ビジネス&生活⑩
クレームには即返金で対応!
スマホ決済でビッグデータ収集した盒馬(フーマー)