会報誌2023年9月号(vol. 107)の巻頭特集では、中国版インスタグラムとも称される人気のSNS(ソーシャル)プラットフォーム「小紅書(RED)」を取り上げました。
2013年の運営開始から10年のときを経て、当初の海外代理購入情報コミュニティから、より幅広い「種草」(ジョンツァオ)、つまり推しの商品をレコメンドする「シーディング(種まき)」コミュニティへと成長した小紅書。
いまや検索エンジンやライフスタイル全般の“辞書”として、中国人の生活になくてはならない存在となりつつあります。多くの中国人にとって、何かを買う際に、まず小紅書アプリを開き、他人の評価やレコメンドをチェックすることが習慣化しているほどです。
小紅書が公表したデータによると、ユーザーの90%が、買い物の前に小紅書で検索しているようです。ベビーからファッション、メイクなどのほか、旅の目的地や攻略法の研究にも活用。生活関連情報や結婚指輪、スイーツや料理のレシピも検索。小紅書の月次アクティブユーザー数は、現時点で3億2千万人に達しています。
小紅書は、商品を消費者に知らしめる「種草」(ジョンツァオ)の場として、まず最初に名前の挙がるプラットフォームにもなっています。実は、2014年以降、小紅書も自社のEコマース部門の育成に取り組んでいるのですが、鳴かず飛ばずで、多くのユーザーが小紅書で種草(シーディング)されたのち、購入は外部のECプラットフォームに移動しているのが実状です。
しかしながら、すでに多くの企業が、高い種草(シーディング)効果から、小紅書を重要なマーケティングツールの1つとして捉えています。電通の「2023小紅書投資意欲度調査」によると、企業の67%が今後、小紅書を活用したマーケティングにさらなる予算を投じると回答しています。
2023年に入り、小紅書もライブコマースに注力。最近では人気女優の董潔(ドン・ジエ)や香港のインフルエンサーの章小蕙(テレサ・チュン)による「慢直播」(スローライブ)が話題を呼んでいます。
このスローライブは、一般的なライブコマースのように声を張り上げて低価格で商品を叩き売りするスタイルと異なり、落ち着いたペースで生活を楽しむことを提案するのが特徴。両名のスローライブは、それぞれ7,000万元と5,000万元の取引高を記録。小紅書のスローライブ自体も各界から注目を集めるようになりました。
Eコマースの取り組みを本格化している小紅書ですが、その強みと弱点はどこにあるのか?企業(ブランド)は今後、小紅書をいかに活用すべきか?また、小紅書のEコマースは今後どのように発展していきそうか?これら疑問について、今号で詳細に分析しています。
次にトレンドウォッチでは、アフターコロナの社会現象から中国マーケティングを洞察しています。
世界的にコロナの“悪夢”からほぼ解放された2023年。過去3年間のコロナ生活は、人々の生活や価値観に大きな影響を残しました。中国でも、不確実な将来に対する不安感から、常にリスクを意識するようになり、消費もより保守的になっています。
老後の生活について早くから考え出す若者が急増。両親や親戚からより多くのサポートを得たいと考える若者も増えています。
感情に対する価値観も変化しつつあります。感情面でのリスクや苦痛を減らすべく、親密な関係にも自身の立ち位置やニーズを明確にし、シーンごとの満足感を追求する人が増加。不確実性による不安感が増すなか、リアル、ネット問わず、多種多様な「社交」イベントやアクティビティが、そうしたはけ口の対象となっているようで、ときには若干過激なノリも人気を集めています。
ここで一旦、中国でいう「社交」について説明しておきましょう。中国では知人、ネットで知り合った人、見知らぬ人問わず、何らかの繋がりで一緒に出かけたり、食事やスポーツなどアクティビティを共にしたりする行動(行為)を「社交」と呼びます。ちなみにSNS(ソーシャルサイト)のことも「社交」といいます。
また、仕事と生活のバランスを重視する人が増え、古き良き時代が感じられるレトロな要素にも注目が集まっています。新しいテクノロジーにより、人々の生活も大きく変化。人工知能(AI)の普及に伴い、個人の生産性が拡大し、ヒトとアルゴリズムの関係も新たな段階に入りつつあります。
中国調査会社の袤則諮詢(Maoze)は「2023大社交トレンド価値観調査研究」で、不確実性に直面した中国の人々は、価値観がより保守的になったが、一方で、徐々に正常さを取り戻しつつある日常のなか、社交を通して社会との結びつきを渇望していると主張しています。
そこで今号では、アフターコロナの2023年に入り、中国で顕著となった注目すべき社会現象やトレンドをピックアップし、そのうえで、日本企業が中国での事業戦略やマーケティングを検討する際のインサイトを考察してみました。
あの頃の中国ビジネス&生活(その12)は、「前置倉庫」(ダークストア)型で急成長した叮咚(ディンドン)についてです。
2016年に誕生して以来、飛ぶ鳥を落とす勢いで急成長し、中国ネットスーパー市場は盒馬(フーマー)の独壇場と思われていたなか、2019年に急に頭角を現しはじめたのが、「叮咚買菜」(ディンドン)です。
ディンドンは中国で「前置倉庫」と呼ばれるダークストア型のネットスーパー。つまり店舗を持たず、小規模倉庫をなるべくユーザーの居住エリア近くにたくさん設置し、スマホアプリから届いた注文にスピーディーにデリバリー対応するモデルです。
2017年4月に上海で運営をスタートしたディンドンは、フーマーの売上構成を徹底的に分析。 またイートインでの食事のために店舗を訪れる人が減ってきていることをつぶさに観察し、そこから “いいとこ取り”戦法を採用したのですが、その秘策とは…。
そのほかにも、中国の消費やマーケティングに関するインサイト情報やデータが盛りだくさんです。
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会報誌『中国消費洞察』
2023年9月号(vol. 107) もくじ
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【巻頭特集】小紅書(RED)分析レポート
「慢直播」(スローライブ)でEC市場開拓なるか?
中国で最も影響力あるSNS「小紅書(RED)」を紐解く
【トレンドウォッチ】中国社会現象・トレンド分析レポート
経済・社会の不確実性に“備える”若者急増
アフターコロナの社会現象から中国マーケティングを洞察
【マーケティングコラム】あの頃の中国ビジネス&生活⑫
フーマーの弱点を見抜いて一気に攻勢をかけた…
「前置倉庫」(ダークストア)型で急成長した叮咚(ディンドン)