会報誌2022年10月号(vol. 98)の巻頭特集では、新たな消費トレンドとして浮上する「興趣消費」(以下、興味消費)について深堀りしました。
中国では生まれた時から経済的に恵まれ、インターネットに慣れ親しんで育った「90後」(1990年代生まれ)や「00後」(2000年代生まれ)と呼ばれる若者が、消費の主力層に成長しつつあります。
消費の際に、彼らは単なる実用性だけでなく、ユニークさや交友関係など社交的な価値、さらには中国で「悦己」と称される自分を喜ばせるための消費など、精神面の充足感も重視する傾向が強いようです。そんな彼らの台頭により、中国の消費市場も大きな変化を迎えています。
中国で「興趣消費」と称される新しい消費トレンド。中国語で「興趣」とは、興味、趣味、関心、面白味などを意味します。興趣消費というネーミングは、中国の雑貨チェーン店大手で「MINISO」や「メイソウ」で展開する名創優品のCEO(最高経営責任者)葉国富氏が2020年に初めて言及した新しい概念です。
葉氏は「商品の価格や機能のみを重視する時代は過去のものとなり、新世代の消費者は体験をより重視するようになっている。フィーリングやシーンなどに端を発し、精神的な経験や価値観の一致を重視する消費においては、物質的な消費よりも商品によってもたらされる幸福感や満足感が重要となる」と述べています。
つまり興味消費においては、企業(ブランド)側が、若年消費者層の消費行動や心理を読み解くことが不可欠になっているといえるでしょう。若者にとって、消費の核心は自身のための悦びであり、幸福感を高めることにあります。
精神面の充足を求めるトレンドは日々顕著になり、自身を満たし、社交の輪に加わることは、若年消費者層の興味消費の最大の目的となっています。若者が求める精神面の充足は、昨今、中国の消費市場に大きな影響を与えつつあります。
そこで今号では興味消費について改めて定義するとともに、このトレンドの社会的背景や消費の特徴を分析。また興味消費を代表するブランドで前述の名創優品(MINISO)のほか、スポーツアパレル大手の李寧(リーニン)や安踏(ANTA)、さらには興味消費を引率するショート動画の抖音(ドウイン・TikTok)についても調査レポートしています。
次に業界研究として、コロナ下でも堅調に成長する中国コンビニ市場を取り上げました。
中国のリアルの消費現場において、成長を維持している数少ない業態の1つが「便利店」。つまりコンビニエンスストア(以下、コンビニ)ですが、新型コロナの流行期から現在に至るまで、市場規模や店舗の人口密度など各指標が上昇しており、一線都市のみならず二線、三線都市にも、コンビニチェーン店の進出が相次いでいます。
コンビニ各社は新型コロナの流行期にも、その成熟したサプライチェーンを活用し、生活物資の輸送に奮闘しました。政府も各種支援政策を通して、コンビニのブランド化、チェーン化、スマート化を奨励。コンビニ業界の発展は消費全体の促進にも大きな効果を及ぼしています。
中国のコンビニ市場はアメリカ、日本、英国に次ぐ第4位の規模となっていますが、コンビニ店舗数は世界1位。約25万3,000店で、これはアメリカの約1.7倍、日本の約4.5倍に当たります。
一方、普及率は7,033人/店で、アメリカ(2,211人/店)、日本(2,218人/店)、韓国(1,059人/店)に遠く及びません。これはつまり中国のコンビニ市場はまだ飽和状態に達しておらず、今後も大きな発展の可能性を秘めているといえるでしょう。
コンビニチェーンの店舗数ランキングでは、ガソリンスタンド併設型の「易捷」(Easy Joy)と「昆侖好客」(uSmile)が1位と3位。広東省・東莞発の「美宜佳」(MEIYIJIA)が2位で、いわゆるコンビニチェーンとしてはトップに立っています。
日系も善戦しており、ローソン(中国語名:羅森)、ファミリーマート(中国語名:全家)、セブンイレブンはそれぞれ第6位、第8位、第9位にランクイン。店舗数はそれぞれ4,466店、2,902店、2,893店に達しています。
そこで今号では、中国のコンビニ市場の現状について、チェーン企業間の競争や地方への進出状況、都市別の発展状況、さらにはデリバリーや共同購入の対応など今後のトレンドについても分析しました。
あの頃の中国ビジネス&生活(その3)では、2016年から17年にかけて一世を風靡したシェア自転車について。2016年春頃に、上海の街角で突如として現れたオレンジ色のマウンテンバイク風シェア自転車「摩拝単車」(モバイク)。その後、黄色のofo(オッフォ)も登場し、水色、黄緑、緑、白赤と様々なシェア自転車が街角を彩るようになりました。
しかしシェア自転車の“この世の春”も長続きしませんでした。放置自転車が問題視され、政府による監督管理が強化。過当競争や資金繰りの悪化などから撤退や買収が相次ぐなか、シェアリングビジネスの難しさが露呈する結果に…。中国版MaaS(マース:Mobility as a Service)事情とともにお届けしています。
そのほかにも、中国の消費やマーケティングに関するインサイト情報やデータが盛りだくさんです。
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会報誌『中国消費洞察』
2022年10月号(vol. 98) もくじ
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【巻頭特集】中国最新「興趣」消費トレンド調査分析レポート
幸福や満足など精神的充足感を消費に求める若者
新たな消費トレンドとして浮上する「興味消費」
【業界研究】中国コンビニ業界分析レポート
デリカニーズ急増、激戦都市トップは厦門(アモイ)
コロナ下でも堅調に成長する中国コンビニ市場
【マーケティングコラム】あの頃の中国ビジネス&生活③
中国でのMaaS(マース)事情は?
シェア自転車が一気に普及するも2年で終焉…