会報誌2018年7&8月合併号(vol.56)では、巻頭特集に「ノンブランド」を取り上げました。ここでいうノンブランドとは、日本の「無印良品(MUJI)」のようなビジネスモデルで、ブランド色を前面に出さず、シンプルなデザインやコンセプトの商品を各種取り揃える“ノンブランドの”ブランドともいえるでしょう。
もはや中国電子商取引(EC)業界でブームともいえるほどの人気ぶりですが、その火付け役となったのが「網易厳選」です。無料メールボックスやゲームで有名な中国ポータルサイト大手の網易(ネットイース)が、16年4月に運営をスタート。シンプルなデザインながら、一定の品質を備えた商品をあらかじめ「厳選」して消費者にお届けする販売スタイルが、中国消費者の心を鷲掴みしました。
当時、「淘宝網(タオバオ)」と「天猫(Tモール)」を擁するアリババと京東(JDドットコム)がほぼ牛耳る中国電子商取引(EC)市場において、網易厳選のコンセプトや提案力は、どこか“新鮮な”イメージを与えました。「好的生活没那幺貴(良い生活はそれほど高くない)」をキャッチフレーズに、一定水準のデザインと品質を兼ね備えた商品を安く提供。世界の一流ブランド企業に向けてOEM/ODM生産している工場で製造している点もウリにしました。
百花繚乱的なECモールではなく、あらかじめスタッフが厳選して取り揃えたセレクトショップ的なコンセプトが、昨今のより良いものを求める「消費昇級(アップグレード)」トレンドやクオリティ重視の消費性向にもマッチ。スーツケースなど数十SKUから始めたビジネスが、現在は10カテゴリで1万点以上にまで成長。17年の売上は70億元に達し、18年は200億元が目標とのことです。
こうした成功を傍目に、続々と他のECやIT大手各社も、ノンブランド分野の展開を本格化。17年4月にスマートフォン(スマホ)大手の小米(シャオミ)が「小米有品」を、同年5月にタオバオが「淘宝心選」をそれぞれスタート。18年1月には京東が「京造」を立ち上げ、家電量販大手の蘇寧(スニン)も「蘇寧極物」の運営を開始。その他にもブランド品のノンブランド化に特化する「必要商城」や、ベビー・マタニティ専門ECサイト「蜜芽」(mia.com)による「兔頭媽媽甄選」など、もはや中国ECの新潮流ともいえる盛況ぶりです。
こうした「ノンブランド+厳選」モデルが出てきた背景には何があるのか。またそれを可能にしたサプライチェーンや消費者の趣向の変化とは。こうした疑問について、この特集で調査・分析するとともに、網易厳選、小米有品、淘宝心選、京造の運営状況や今後の動向について解説しています。
次に、業界研究でフォーカスしたのが、2017年に世界的にも多くの注目を集めた「スマート(AI)スピーカー」。音声操作対応のAI(人工知能)アシスタント機能を備えたスピーカーで、情報の検索や音楽の再生、家電の操作などができるのが特徴です。日本でもアマゾンの「アマゾンエコー」やグーグルの「グーグルホーム」などで認知度が高まっていると思います。
このスマートスピーカーを巡り、いま中国で熾烈な覇権争いが繰り広げられているのです。京東(JDドットコム)の参入を皮切りに、アリババ、小米(シャオミ)、百度(バイドゥ)などネット・IT大手各社が続々と追随。販売台数も15年の1万台、16年の6万台から、17年には165万台へと一気に急上昇。
18年第1四半期には世界のスマートスピーカー市場が200%成長したとされる中、中国はなんと5370%増というデータもあるほどです。すでにアメリに次ぐ第2の市場になっており、アリババ70万台、小米20万台は、アマゾンとグーグルに次いで、世界3位と5位になっています。(4位はアップル)
このように世界的にも存在感を示し始めた中国スマートスピーカー各社。彼らが目指すのは、単にその市場シェア獲得だけではありません。むしろこのスマートスピーカーを通して、将来的にスマート家電分野で主導権を握りたいという思惑が“ありあり”です。またユーザーからの音声データを早めに多く集め、それをビッグデータ化してディープラーニングさせることで、AI(人工知能)や反応の精度を高め、異なる分野にも応用させるといった目論見もありそうです。
そのため、各社は一様に原価割れの「赤字覚悟」ともいえる低価格で販売攻勢をかけています。天猫や定価499元のモデルを99元に、京東も定価359元を49元に割引するなど、低価格どころか“格安”で、まずは「ばらまく」戦略。消費者にとってみれば、もはやスマートスピーカーを「買うかどうか」ではなく、「どの企業のにすべきか」という悩みに変わっています。
パソコンからスマホ、そして次世代のプラットフォーム(OS)になりうる可能性を秘めたスマートスピーカー市場の争奪戦について、中国の同市場規模からサプライチェーンや技術面での進歩、参入企業の紹介と各社の特徴やアピールポイント、消費者の反応や購入意欲、ターゲットとなる客層、アリババと小米の戦略、そして今後の動向について調査・分析しています。
さらに中国EC業界の研究として、「618」セールを取り上げました。618セールとは、元々、中国ECプラットフォーム2位の京東(JDドットコム)の誕生日(設立日)である6月18日に開催する割引キャンペーンでした。それが今や独身の日(11月11日)の「双11」セールに匹敵するほどの巨大な「国民的」イベントに様変わりしています。
2017年末で5.33億人に達した中国ECユーザー。小売全体に占めるネットの割合も19.6%に達するなど、もはや中国人にとって身近で“当たり前”の消費形態となったネット通販。18年の618セール期間中の総売上は過去最高を更新。参加した47のEC企業の売上は合計で2844.7億元となり、前年の双11セールの2539.7億元をも超えました。
今回の618セールで特に注目すべきは、こうした巨額の売上規模だけではありません。アリババが提唱・推進する「新小売(ニューリテール)」、つまりオンラインとオフラインを融合し、そこに電子決済とビッグデータによる物流・販売を組み合わせた新しいオムニチャネル概念を、各社とも積極的に取り入れた点でしょう。
アリババは、全国70箇所の新小売概念を導入した商圏だけでなく、資本参加した銀泰百貨や総合スーパー(GMS)の大潤発などで、天猫618セールを開催。京東も、スマホSNSの微信(ウィーチャット)を活用したO2O(オンライン・ツー・オフライン)を駆使しながら、50万超のスーパーやコンビニなど実店舗でもキャンペーンを実施。家電量販大手の蘇寧(スニン)も、全国4000箇所の実店舗網と連携して、大体的にセールを展開しました。
今回の618セールの結果から、消費の主力が、80後(1980年代生まれ)や90後(1990年代生まれ)の若い世代にシフトしていること。またアンチエイジングやペット、アフターサービス、トラベル・レジャーなど、自分の生活を豊かに贅沢にする商品やサービスが売れ行きを伸ばしていることがわかりました。
さらに、特に家電を中心に、欧米や日本ではなく、国産ブランドに対する信頼や人気が高まりつつあること。また成長著しい農村地区での“パイ”をいかに取り込むかといった点が、今後のトレンドとして浮かび上がってきました。
この特集では、京東、天猫、蘇寧3社の618セールの実績、売れ筋、新小売の取り組み、物流面での改善などを踏まえながら、そこから見えてきた中国消費のトレンドや動向、消費者の趣向や意識の変化、そして中国経済、特に消費に及ぼす影響などについて解説しています。
そのほか、以下のとおり、中国マーケティングやECに関する情報が盛りだくさんです。
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ニュースレター冊子『チャイナ・マーケット・インサイト』
2018年7&8月合併号(vol.56) もくじ
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【巻頭特集】
『“無印良品”風の「ノンブランド」が中国で大人気』
「網易厳選」が生んだ中国ECの新潮流
【業界研究】中国スマートスピーカー業界
『大手が続々と参入、中国スマートスピーカー業界』
「スマホの次」として主導権争いが激化
【業界研究】中国EC業界
『リアルを巻き込んだ「新小売商法」が新たな争点に』
京東・天猫・蘇寧「618」セール徹底分析
【都市別調査】
茶館と網紅のマジック ~その①
『勃興、新型ティーハウス SNSが火付け役に』