会報誌2020年10月号(vol.78)では、巻頭特集でZ世代や新中間層と並び、新興の消費者層として脚光を浴びる「新藍領(新ブルーカラー)」を取り上げました。従来の製造業・建設業・鉱業・農業・林業・漁業などの現場で生産工程・現場作業に従事する労働者ではなく、アプリ発の新しい“肉体”労働者である新ブルーカラーの実像とは?
インターネットやスマートフォン(スマホ)の普及で、各種O2O(Online to Offline)プラットフォームや、オンラインとオフラインを融合した「新小売」サービスが、生活の各方面に浸透。デジタル経済の深化は、数々の新しい産業構造を生み出しています。
それに伴いネット通販や出前(フードデリバリー)、ネットスーパーの配達員、ライドシェアや運転代行のドライバー、家事代行でもエアコン掃除やダニ除去などの専門スタッフなど、スマホアプリの台頭とともに、数々の新たな職業が誕生しています。
新ブルーカラーという呼び名が初めて使われたのは2013年。生活情報サイトの趕集網(www.ganji.com)が北京大学の市場・メディア研究センターと共同で発表した報告書の中でした。省都など二線級都市以上の大都市で生活・働き、都市の日常の営みを支える単純労働者というのがその位置付けでした。
当時はまだスマホが普及する前。販売員、不動産マネージャー、警備員、美容師・エステティシャン、宅配便配達員などや、単純作業を行う一部のホワイトカラーなどが相当。従来のブルーカラーと異なり、新ブルーカラーの仕事は、サービス業の色合いが濃いものでした。
その後、2018年に深圳を本拠とする消費者金融の即有分期と人民網輿情数据中心(データセンター)が共同で発表した「中国新時代ブルーカラーの消費と成長白書」で、新ブルーカラーに独自の定義を加えました。それは、1985年以降生まれで、完全にネット社会で生まれ育った世代で、「高収入」、「自分の意見を持つ」、「新しいモノ好き」などの特徴があると。
都市化が進み、産業構造がアップグレードするに伴い、多くの新ブルーカラー予備軍が故郷を離れ、一線・二線級都市へと移住してきました。彼らは親世代よりも物質的に恵まれ、消費水準も高く、独立心が強い。またネット社会の住人として、多くの情報チャネルを持ち、独自の消費観を持っている。欲しいモノはすぐに手に入れたい、ローンをしてでも買いたいと考えるのも彼らの特徴といえるでしょう。
そこで今号では、中国社会のなかで日に日に増え続けるこの新ブルーカラーについて、その行動や消費の特徴を分析しています。
次に業界研究として、中国の「母婴」(ベビー・マタニティ)市場にフォーカスしています。1979年から実施した「一人っ子政策」による人口の急速な高齢化を背景に、2016年に「二人っ子政策」が導入されました。
2人目が出産できるようになった2016年は、明らかに出生数が増加。1,850万人に迫る勢いでしたが、この政策効果は2年で減速。その後の出生数は3年連続で減少し、2019年には1,465万人で、大躍進政策で多くの餓死者を出した1961年以来、58年ぶりの低水準となりました。
若者の価値観や家庭観の変化、養育費や教育費などの金銭面でのプレッシャーのほか、仕事や生活面でのストレスなどから出生数の大幅増は当面見込めそうにありません。しかしこうした状況に反して、中国のベビー・マタニティ市場は順調に成長しています。
中国全土、老若男女問わず、より良いモノ・サービスを求める「消費昇級(アップグレード)」トレンドは依然堅調で、ベビー関連用品・サービスの需要もますますハイエンド化が進んでいます。量だけでなく質も求め始めた若いパパママ層が、同市場発展の大きな追い風となっているようです。
ベビー関連市場の主力層となった1990年代生まれの「90後」世代の若年パパママ層。彼らの価値観や消費行動、情報収集チャネルは、親世代どころか前世代とも大きく異なりつつある中、Eコマースのほか、ネット中心にベビー関連のコミュニティ(社群)も普遍化。KOL(キーオピニオンリーダー)によるライブ動画(直播)・ショート動画(短視頻)を通した「種草」(※リコメンドを意味するネット用語)などのトレンドは、中国のベビー関連市場に大きな変化をもたらしています。
減少する中国の出生数に反し、子育て観の変化や、「消費昇級(アップグレード)」トレンドの影響などで、家庭消費における子供関連支出は増加。2019年の中国のベビー関連市場の規模は前年比11%増の3.54兆元に。市場規模は今後も拡大傾向が続き、2023年には5兆元を超えるとも言われています。
そこで今号ではこの市場拡大の背景の分析とともに、若年パパママ層の価値観の変化から情報収集、消費行動、アプリの利用状況などについて調査・レポートしています。
トレンドウォッチは、急成長するミニアプリ(小程序)市場についてです。2017年にチャット・SNSアプリの微信(ウィーチャット)が、世界初のミニアプリである「小程序」の運営を開始。ミニアプリは、いわゆる一般的なアプリとは異なり、別途ダウンロードが不要。誰でも簡単かつスムーズに使えるのが最大の特徴といえます。
操作や設定が簡単なミニアプリは、企業やユーザーにとって理想的なプラットフォームでしょう。淘宝(タオバオ)や天猫(Tモール)、京東(JDドットコム)に代表される大手ECサイトなどの「公域」(パブリック・ネットワーク網)トラフィック上で、店舗運営コストが上昇を続けるなか、ミニアプリを使った中国版D2Cの「私域」(プライベート・ネットワーク網)運営に重点を移す企業も続出しています。
新型コロナウイルスで大きな打撃を受けた小売各社は、先を争ってオンライン業務に重点を移行。ミニアプリはデジタル化を速やかに実現するチャネルとして高い注目を集めました。2020年1~8月に、微信のミニアプリ上で実現した商品のGMV(取引総額)は、前年同期比115%増。各社自営サイトのGMVも210%増の成長を記録しました。
なかでも成長が著しかった業界は、日用品、奢侈品、ショッピングモール及び百貨店。今年2月に運営を開始したライブ動画配信機能「ミニアプリライブ(小程序直播)」は、現時点ですでに10万社近くが利用しています。
ミニアプリをオンライン運営の中核とし、新規顧客の開拓やマーケティングを行う企業が増えた結果、ミニアプリ分野の専業サービスベンダーも急増しています。最新データによると、2020年の微信ミニアプリのデイリーアクティブユーザー数は4億人超で、200以上の業界で活用。関連業務の就業者数は536万人で、第三者サービスベンダーは4万社を超えるなど、ミニアプリ関連のビジネスは拡大を続けています。
現在主流のミニアプリ専業サービスベンダーの多くは、SaaS(Software as a Service)モデルを採用。各業界向けのテンプレートを開発し、顧客企業が低コストで速やかにミニアプリの運営を始められるようなサービスを提供。オンライン業務の運営経験が乏しい中小企業にとっても、第三者サービスベンダーの利用は最適の選択といえるでしょう。
そこで今号では、こうした第三者SaaS専業ベンダーを紹介するとともに、彼らが提供する主な機能や費用体系について、調査・レポートしています。
そのほか、以下のとおり、中国消費やマーケティングに関する情報が盛りだくさんです。
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会報誌『中国消費洞察』
2020年10月号(vol.78) もくじ
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【巻頭特集】「新ブルーカラー」調査分析レポート
Z世代・新中間層に続く中国消費の新勢力大解剖
アプリ発の新興職業層「新ブルーカラー(新藍領)」
【業界研究】中国ベビー・マタニティ市場調査レポート
出生数伸び悩みながら市場は拡大中
アプリ・コミュニティ化進む中国ベビー市場
【トレンドウォッチ】私域運営の要「ミニアプリ」調査レポート
SaaS専業ベンダー活用がカギに
急成長するミニアプリ(小程序)市場
【マーケティングレポート】「雲」の上の生活へ②
会わない、交わらない ウイルス対策の小売改革