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【第583回】 ライブコマースもコンテンツの質が問われる時代に

抖音(TikTok)はECプラットフォーム?

2023年8月16日更新

中国男性向けアパレルの老舗ブランド「紅豆(Hodo)」は抖音上でAR(拡張現実)技術を使った新商品発表会を開催。
 中国では「抖音」(ドウイン)と呼ばれるTikTok。日本では若者を中心に、15秒から10分までのショート動画アプリとして人気となっています。

 日本ではあくまでもユーチューブと並ぶ情報発信・拡散ツールでしょう。KOLやインフルエンサー、芸能人などはまだしも、企業が広報(PR)に積極活用しているかといえば、まだこれからといったところではないでしょうか。

 中国でももちろん同様に情報発信・拡散ツールではあるのですが、今ではライブコマース含むEC(電子商取引)のツールとしての位置づけがますます高まっています。

 2022年時点でユーザー数8億4,200万人前後、デイリーアクティブユーザー数も7億人を超える抖音。主要ユーザー層は全体の約4割を占める24歳から30歳の若者で、特にブランド露出や新商品の発表に適したプラットフォームとなっています。

 抖音の「2022抖音EC中国国産品発展年度報告」によると、2022年に、抖音ECにおける中国国産ブランドの取引高が、前年比110%増。このうち、老舗ブランドの取引高は前年比156%増、新興ブランドも前年比84%増となったようです。

 1957年設立の中国男性向けアパレルの老舗ブランド「紅豆(Hodo)」が好例です。2022年3月に抖音上でAR(拡張現実)技術を使った新商品発表会を開催。ライブコマースと連動させ、開催期間中のGMV(流通取引総額)は、前年比678%増を記録しました。

 抖音にとって、ECの重要度が上がっているとはいえ、本質はあくまでも動画コンテンツです。 アルゴリズムにより推薦される動画がライブコマース、つまり“買わせる”動画ばかりになってしまうと、ユーザーは嫌気が差し、結果的にユーザー流出に繋がってしまいます。

 抖音が2022年上半期に行ったテスト結果では、EC関連の動画コンテンツの割合が、閲覧時間全体の8%を超えると、ユーザーの滞在時間に明らかなマイナスの影響が見られたようです。

 抖音はこの結果にもとづき、2022年5月に、同社広告投稿システムである「巨量千川広告系統」の規定を改定しました。

 これまでは高い広告費用を払った企業や店舗が優先的に露出されるシステムとなっていましたが、新しい規定ではユーザーの滞在時間や取引などに関するデータも評価指標に追加。動画コンテンツの質が、ライブコマースの露出により大きく影響するよう仕様を変更しました。

 これまでのビジネス色の強かった広告投稿システムに、コンテンツの質による評価を加えた点から、抖音がライブコンテンツの質を特に重視している姿勢がうかがえます。

 結果的に、規制強化で苦戦を強いられた学習塾大手「新東方」の講師が、豊富な知識と巧みなトークでライブ配信する「東方甄選」が人気を集め、わずか7日間で1,000万人台のフォロワーを獲得しました。

 中国でライブコマースを展開する日本企業にとっても、単に安売りをアピールするだけでなく、コンテンツの質をいかに高めるかについて、真剣に議論していく必要があるといえるでしょう。
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